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広島高等裁判所 昭和29年(ラ)19号 決定 1955年1月17日

抗告人 中田ハツノ

訴訟代理人 丸下紫朗

相手方 中本千一

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告理由を要約すれば次の通りである。

元来強制執行はその執行の効果が執行債権者に帰属することを要し執行外第三者につき効果が及ぶべきものではない。然るに本件執行に当つては執行文上執行債権者となつている相手方をもつて執行外第三者の代理人として執行を完結している違法がある。しかのみならず右第三者たる中田末男は意思能力もない無能力者であつて現在後見人も定まつていないことを熟知しながら執行吏は勝手に相手方をその代理人として本件物件の占有を移しているが右は無能力者を保護すると共にこれを相手とする第三者の取引の安全をも計る後見制度を無視し後見人でもなく何等代理資格のない相手方を右無能力者の代理人として目的物件を引渡したもので明かに違法である。又本件債務名義である和解調書自体無効であるか少くとも執行不適であるから仮に相手方に執行文の付与があつたとしても執行吏としては執行不適として執行を中止するのが当然で何れにせよ執行方法に関する異議申立を却下した原決定の是正を求めると謂うにある。

仍て考えてみると本件記録によれば本件執行の債務名義となつている和解調書において抗告人は相手方に対し第三者たる無能力者中田末男に本件不動産を引渡すべき義務を負担した和解契約を締結したものであるが抗告人がこれを履行しないため債権者たる相手方が執行文の付与を得てその執行に着手したが執行吏は本件不動産を相手方に引渡して執行を終了している。

而して右和解契約は第三者の為にする契約であるから元来第三者たる中田末男が受益の意志表示をなし本件不動産引渡請求権を行使すべき筋合であるが右第三者がこれをしない場合でも債権者は自ら債権者に対し第三者に給付すべき旨の請求権を行使し得ることは当然である。此の場合直接強制執行の方法によつてこれをなし得ること勿論で執行吏は該不動産を債務者の占有から解放して第三者に引渡すことになるのでその効力はもとより第三者に及ぶものであつて、執行の効力が執行外第三者に及ばないとか右債権者は執行債権者として適格がないという論旨は採用できない(昭和四年九月二十六日大審院判例参照)。

而して本件にあつては第三者の為にする契約の要約者として相手方が執行文の付与を受けて居り、執行吏は債務者(諾約者)たる抗告人の占有する本件不動産を解放してこれを第三者である無能力者中田末男に引渡す方法として相手方に引渡しているのであるが右は執行吏としては右執行関係においては債権者たる相手方を第三者の代理占有者たり得るものと考えたものとも解され、此の理は第三者の為にする契約において債権者は第三者の為に債務者から直接に目的物の引渡を受けこれが代理占有をなし後これを第三者に交付することが許される場合があることから考えて無理ではなくその措置必らずしも違法とはいえない。従つて右は占有関係のみの問題であつて相手方を無能力者の後見人又はその代理人とみたわけでないので後見制度を無視した違法という論旨は当らない。その他前記執行の途上において手続上何等の瑕疵を見出し得ないのみならず抗告人の他の論旨も結局本件債務名義たる和解調書の内容や執行債権者の適格等を攻撃するもので執行方法に関する異議の理由としては採用の限りでない。

然らば抗告人の執行方法に関する異議申立を却下した原決定は相当で本件抗告は理由がないから民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように決定した。

(裁判長判事 植山日二 判事 佐伯欽治 判事 松本冬樹)

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